東京地方裁判所 昭和37年(ワ)731号 判決 1962年11月28日
判 決
原告
太田勝男
右訴訟代理人弁護士
本渡乾夫
重田九十九
被告
有限会社入沢本店
右代表者代表取締役
入沢三郎
右訴訟代理人弁護士
橋本順
早川庄一
右当事者間の昭和三七年(ワ)第七三一号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
一、被告は、別紙物件目録記載のパーマネント用毛捲カラーを販売してはならない。
二、被告は、原告に対し、金二十万円、および、これに対する昭和三十七年二月九日から支払いずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
三、原告のその余の請求は、棄却する。
四、訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五、この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
原告訴訟代理人は、「一、被告は、別紙物件目録記載のパーマネント用毛捲カラーを販売してはならない。二、被告は、原告に対し、金六十万円、および、これに対する昭和三十七年二月九日から支払いずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決、および、第二項につき仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「一、原告の請求は、いずれも棄却する。二、訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
(請求の原因等)
原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。
一 原告は、次の実用新案権の権利者である。
名 称 パーマネント用毛捲カラー
出 願 昭和二十九年五月十四日
公 告 昭和三十年八月十二日
登 録 昭和三十一年二月三日
登録番号 第四三九、七〇七号
二 本件登録実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載は、「金属螺旋筒を蕊筒とし、その外面を鯨髯または合成樹脂繊維を材料として、粗目に、かつ、無継目の丸編によつて斜地に編織した撥水性の網布で被包し、その網布の両端を蕊筒の内面に折り込んでなるパーマネント用毛捲カラーの構造」とされている。
三、しかるに、昭和三十五年一一月二十五日頃から、本件登録実用新案の技術的範囲に属する別紙物件目録記載のパーマネント用毛捲カラーに「アミカラー」または「ニユーカラー」という名称を付してこれを販売し、原告の実用新案権を侵害している。
四 すなわち、被告は、その販売にかかる毛捲カラーが、原告の実用新案権を侵害するものであることを知り、または、知りえたにかかわらず、過失によつてこれを知らないで、昭和三十五年十一月二十五日から昭和三十六年九月二十一日までの間、十箇入りのものおよび八箇入りのもの合計一万五千百九十一箱を金百六十四万四千六百円で仕入れ、これをいずれも一箱金百八十円で販売し、差引合計金百八万九千七百八十円の利益を挙げたものであり、原告は、被告の右販売行為により、金百八万九千七百八十円の損害を蒙つた。
五 よつて、原告は、被告に対し、本件実用新案権に基き、別紙物件目録記載の毛捲カラーの販売の差止めを求めるとともに、原告の蒙つた損害金のうち金六十万円、および、これに対する不法行為の後である昭和三十七年二月九日から支払いずみに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
六 被告主張の第四項、第五項の事実は否認する。
(答弁)
被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
一 原告主張の請求原因第一項および第二項の事実は認める。
二 同じく第三項の事実中、被告が、原告主張の頃から、本件登録実用新案の技術的範囲に属する別紙物件目録記載の毛捲カラーを販売していることは認める。
三 同じく第四項の事実中、被告が、原告主張の数量および価額の毛捲カラーを仕入れて、これを販売したことは認めるが、その余は否認する。
四 被告の販売する毛捲カラーは、原告の実用新案権につき実施権を有する山本章三から仕入れたもので、被告の販売は適法であり、原告の実用新案権を侵害するものではない。
五 仮に、そうでないとしても、本件実用新案の考案にかかる毛捲カラーは、実用新案登録の出願日である昭和二十九年五月十四日以前から、わが国内において公然知られ、かつ、実施されていたほか、わが国内において頒布された刊行物にも記載された考案に基いて、きわめて容易に考案することができたものであつたので、被告は、このような毛捲カラーについて実用新案権を有する者があるとは考えていなかつたもので、被告が右毛捲カラーを販売するについては故意または重大な過失がなかつたから、実用新案法第二十九条第三項後段の規定により、損害の賠償額を定めるについて参酌されんことを求める。
第三 証拠関係≪省略≫
理由
(争いのない事実)
一 原告が登録実用新案第四五九、七〇七号の権利者であること、右実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載が、原告主張のとおりであること、被告が昭和三十五年十一月二十五日頃から別紙物件目録記載の毛捲カラーを販売していること、右毛捲カラーが右登録実用新案の技術的範囲に属すること、および、被告が昭和三十五年十一月二十五日から昭和三十六年九月二十一日まで、別紙物件目録記載の毛捲カラー一万五千百九十一箱を金百六十四万四千六百円で仕入れたことは、当事者間に争いがない。
(実用新案権の侵害について)
二 被告は、その販売にかかる毛捲カラーは、原告の実用新案権につき実施権を有する山本章三から仕入れたもので、被告の販売は適法であると主張するが、被告がその主張の実施権者から毛捲カラーを仕入れている事実を認めうべき証拠はないので、右主張は採用することができない。
したがつて、被告のなす毛捲カラーの販売は、原告の実用新案権を侵害するものというのほかないから、右販売の差止めの請求は、理由があるといわなければならない。
(故意または過失について)
三 被告の毛捲カラーの販売が、原告の実用新案権を侵害するものであることは、前段説示のとおりであるから、被告の侵害行為については、被告に過失があつたものと推定されるところ、この推定を覆えすべきなんらの証拠はない。
(損害の発生について)
四 (証拠―省略)によれば、被告は、昭和三十六年九月一日、被告の仕入れた毛捲カラーのうち一箱を原告に金百八十円で販売したことが認められ、被告代表者本人尋問の結果によれば、被告会社は、もともと美容材料の卸売りを業とするもので、本件毛捲カラーについても同様卸売りしたものであること、前記原告に販売した一箱については、たまたま、これを小売りとして小売り価額で販売したものであるが、その余の毛捲カラーについては、一箱金百三十円の卸売価額で販売したこと、および、被告は、右販売により、少くとも金二十万円の利益を挙げたことを認めうべく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。原告は、右毛捲カラーの販売によつて、被告は金百八万九千七百八十円の利益を挙げたと主張するが、前認定の額を越えて被告が利益を挙げた事実を認めるに足る証拠はない。
したがつて、被告の挙げた右利益の額は、原告の受けた損害の額と推定されるところ、この推定を覆えすべき証拠はない。
被告は、毛捲カラーの販売につき故意または重大な過失がなかつたから、実用新案法第二十九条第三項後段の規定により、損害の賠償額を定めるにつき、これを参酌されるべきである旨主張するが、同条第三項後段の規定は、同条第二項の実施料相当額を越えて、現実に蒙つた損害の賠償を請求する場合について定めたものであり、このような損害の賠償を求めるものでないことその主張自体から明らかな本件においては、右主張は、全く理由がないものといわなければならない。
したがつて、損害の賠償にかかる原告の請求は、右金二十万円、および、これに対する不法行為の後である昭和三十七年二月九日から支払いずみに至るまで、民法所定の年五分の割合による損害金の支払いを求める限度において、理由があるものというべきであるが、その余は、失当というほかはない。
(むすび)
五 以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求は、主文第一、二項掲記の範囲においては、理由があるものということができるが、その余は理由がないといわざるをえない。よつて、原告の請求は、主文第一、二項掲記の範囲においてこれを認容し、その余は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条を、仮執行の宣言について、同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二十九部
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
裁判官 米 原 克 彦
裁判官 白 川 芳 澄
物件目録 <省略>